~~
長編アニメーションを対象とする新しい映画祭「新潟国際アニメーション映画祭」が来年3月、新潟市で始まることが発表された。一般に人気が高いアニメのエンタメ作品を中心とする映画祭は世界にも類例がなく、業界の“分断”を超え、日本アニメの世界発信を狙う。審査委員長はアニメ映画「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」などを手掛けた押井守監督。5月の記者会見では、「興行成績や監督の評判などを全部無視し、本当にクリエーティブで情熱を感じられる作品を選びたい」と宣言した。
◇
「現在、アニメは日本を代表する文化となり、日本の作品は世界のどこでも見ることができる。しかし、今のアニメ文化は、商業とアート、国内と海外、専門家と大衆に分断され、十分な力を発揮しているとはいえない」
会見の冒頭、フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎さん=KADOKAWA上級顧問=が強調したのは危機感だった。
こうした業界での多くの分断を打破するため、井上さんは今回の映画祭に中心的役割を期待しているという。重要視するのは「国際発信」と「人材育成」。アニメ映画の上映に加え、日本人が手掛けたアニメや漫画の研究論文を発表する場なども設ける。
「いまだに世界で黒澤明や小津安二郎の映画作品が評価されているのは、海外の日本映画研究家が海外で研究を発表しているから。アニメの場合は残念ながら、研究が海外で発信されていない。この映画祭から発信し、地位向上の一助にしたい」(井上さん)
□ □
映画界では長らく、「絵画や音楽などと同様に作家性が現れる」という理由で短編アニメが重要視されてきた。対照的に「商業的」な長編が映画祭などで注目を浴びる機会は少なく、米アカデミー賞でも長編アニメ部門が設けられたのは2001年だった。
押井監督も「これまでのコンテストはアート系の短編がメイン。長編のエンタメ作品のコンテストはなかった」と振り返る。一方、スタジオジブリに代表される映画作品など、近年の一般視聴者が注目しているのは長編だ。
日本のアニメ、巨額の制作費を投じた米ハリウッドのCGアニメ、欧州の巨匠が伝統的な手法で作るアニメ…。新潟の映画祭でプログラミング・ディレクターを務めるジャーナリストの数土直志さんは、「長編は今やアニメ文化の多様性の最先端になった。しかし、同じ視点からの批評がなく、ばらばらな世界に存在している」と分析したうえで、「分断を超えた新しい見方を提案したい」と語る。
アニメの世界では、アヌシー(仏)、ザグレブ(クロアチア)、オタワ(カナダ)に加え、短編専門の広島国際アニメーションフェスティバルが「世界4大アニメーション映画祭」と呼ばれた。しかし、その広島の映画祭は令和2年に終了。発表の場が欧米に偏りがちな今、「アジア最大の祭典」として日本から情報発信できる意義は大きい。
□ □
ではなぜ、新潟なのか。新潟はこれまで水島新司さんや高橋留美子さんら著名漫画家に加え、多くのアニメ関係者を輩出してきた。「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」などのイベントを開催してきた実績もある。堀越謙三実行委員会代表=ユーロスペース代表=は「何十年も継続できる映画祭を目指す」と話す。
押井監督は「アニメ文化の真ん中には作品があるが、その周辺にも声優、コスプレ、フィギュア、ゲームなどさまざまな文化が集まっている。業界の人だけでなく、一般のファンが集まる楽しいイベントになってほしい」と期待を込めた。
筆者:本間英士(産経新聞)
◇
□新潟国際アニメーション映画祭
第1回を来年3月17~22日、新潟市で開催する。国内外から募集した25~35作品を上映。グランプリなどを決めるコンペティション部門では、これまで映画祭などでは注目されにくかったテレビアニメの劇場版やインターネット配信作品からも出品作を募る。40分以上の長編商業アニメが対象。エントリーは11月を予定。
◇
2022年6月20日産経ニュース【メディアインサイド】を転載しています